この木 なんの木“おちょこ”の木?

この春先は、やたらと強風が吹き荒れました。あちこちで、風に煽られて傘が“おちょこ”になった人々を見かけたものです。ところで読者の皆さまは“おちょこ”をご存知でしょうか。最近では、ほとんど死語になっているようで。念のために解説しますと、傘の骨が外側に反り返ってしまう状態をいいます。英文では The umbrella was blown inside out.今年はそんな傘の残骸が、路上や駅のゴミ箱に溢れていました。

弊社のサイト(トップページ右列)に掲載している「コーポレート・ツリー」、何の木かご存知でしょうか? 筆者(楕円球YURI)は、この木を見て“おちょこ”傘を連想したというわけ。あるいは柄(え)の細いエリンギというか、「ミヤマカヤタケ」のまさに“御猪口”状の傘部分に、緑の葉を盛った感じです。傘の裏側にあたるところは、キノコのひだに似て葉脈のような枝が密集しています。

ドラゴンツリー

ブリックスのコーポレート・ツリー(トリップアドバイザー提供)


この木はドラゴンツリー、和名は竜血樹、学名はDracaena cinnabari、ドラセナ属リュウゼツラン科で、「植物のガラパゴス」とも呼ばれるインド洋上のソコトラ島だけに生息する固有種です。2008年にソコトラ島はこの独自の生態系で世界遺産に登録されました。
イエメン領ソコトラ島

アフリカの角(つの)の北東に位置するイエメン領のソコトラ島


降水量の少ない乾燥した土地なので、湿気を含んだモンスーンが山にぶつかって発生する霧が、密生した葉に結露し滴下した水分を根から吸収して生きています。効率よく霧をキャッチするために、おちょこ傘のカタチに進化したのです。この姿にまで成長するには100年以上かかるといいます。幹の中はヘチマのような繊維質で年輪がないため、観察記録などからの推定で樹齢数百年~千年とされる木もあるようです。

「竜血樹」と呼ばれるのは、幹を削ると血のように赤い樹液が出ることに由来。消炎効果のある成分が含まれており、古代から鎮痛・止血など万能薬として珍重され、また塗料や染料にも使われてきました。ローマ軍の兵士もこれを携帯し、戦闘の傷を癒したとされています。

中国と地中海世界を結ぶ交易路「海のシルクロード」時代、ソコトラ島は重要な貿易中継地として栄え、樹液を固めた樹脂・竜血「シナバリ(ラテン語cinnabari)」は『血の宝石』『赤い金』とも言われ、同じ重さの金と交換できる価値を持っていました。特産品として、古代から島の人々の貴重な収入源だったのです。

しかし地球温暖化の影響で海面や地表の温度が上がり、上昇気流が発生し霧が以前より高地で出るようになったため水分が不足、ドラゴンツリーが次々と枯れているらしいのです。現地では苗木から育てるなど対策に着手したようですが、樹木の体をなすまでの年月を考えると…。

弊社の代表は、数年前にテレビで『素敵な宇宙船地球号』と『世界ふしぎ発見!』のスペシャル番組「ソコトラ島特集」を見て、その異様な姿に惹かれ、コーポレート・ツリーにしようと考えていたそうです。ドラゴンツリーから連想される「長い生息、人類への貢献、(生息地における)環境変化」といったキーワードが、弊社の企業イメージにぴったりだと思い、コーポレート・ツリーとして採用したとのこと。

弊社のプロジェクト名は、全て植物の名前です。大地にしっかり根を下ろして研究開発する意味を込めています。どうぞ、長時間かけて育つドラゴンツリーのように、長いお付き合いをよろしくお願いいたします。

*補足
竜血樹の樹脂の名称として「シナバル」が使われることが多いようですが、英語cinnabarの意味を見ると“①辰砂(しんしゃ)、硫化水銀の鉱物 ②赤色顔料 ③明るい赤色、朱色…”。
ラテン語cinnabariは“①竜血樹から採取した樹脂 ②朱砂”(紙版 羅和辞典)。
本文では敢えて「シナバリ」と表記しました。
じつは、ウェブ上でラテン語・英語・日本語をそれぞれ相互に翻訳をしてみると、堂々巡りのような事態になってしまい、最適な呼称・表記はわかりませんでした。
ちなみに「辰砂」は、中国の辰州(現在の湖南省近辺)で産出したことからの命名とのことですが、「辰(たつ)」繋がりというのも面白いですね。

Bookmark this on Google Bookmarks